2021/09/26

 ぼくを吹き飛ばそうとする風はぼくの息じゃない。山の向こうから風が吹く。ぼくの体は肉体におさまることができないからといって、空の高さを知るわけではないけど、空がぼくの心象だと思うとき、すがすがしい思いがするんだ。きれいな空。きみのなめらかな肌を思い出す。雨が怒りのように降り注ぎ、ぼくはびしょ濡れだ。空は雲に覆われて見えないけどあることはわかってる、ないなんて言わせない。
 ないよ、なにもない、そこにはなにもない、あの向こうにもなにもない、ぼくらは生贄で、生きる価値なんてないよ。
 なにありふれたこと言ってんの、あんたの骨、からから鳴ってる、吊り下げられているからだよ、馬鹿みたいにさ! 痛いのは見ることだけじゃない、ただいるというだけの痛みを喜ぶんだね。
 せかいは真っ平らだから、静かな淀みのなかで、心地よく眠るきみを、起こす気にはならない。何書いたっていいんだ。そうやってぼくを不安にする。首のことだけを書けよ。幻は言うだろう。ぼくの幻は、消失することによって存在する。
 いつまででも、いつまでも、白黒映画のように、みんなの目と同じ色で、それなのに。半年かけて書いたノートを、端から燃やして、それをフィルムカメラで撮ったよ。写真は真っ黒だった。光が極まって、焼き尽くしたんだ。太陽のような痰を飲み込む。きみが泣いているからといって、ぼくとは無関係だ。
 無関係だよ。