2021/11/29

尖った鉛筆を、朱色のインクに浸けて、紙の上に一瞬走らせる。ひととひとの関係性に口をだすことは、身をけずることに他ならない。きみは沈黙する、そこにたゆたうのは詩でもなく、ゆたかな乳の香りでもない。不在、ということ。それから、声の残響。説明し…

2021/11/28

風を受け、その風が数億に分離する感触を、みずからの細胞が泡立ちながら澄ました顔をしてずっと向こうから歩いてくる人の視点で、ぼくは点になる。肉は日に日に朽ちていって、いまでは電子計算機のみが、ほろほろしながらもありえない数式を組み立てる。モ…

2021/11/27

ある晴れた日を想像しよう。そこには何があるか。というか、そこにはなにもなくていいのだ。晴れた日に、誰もいない公園に、影がある。影があることによって、その分の光がなくなってしまっている。実際にはそこに人が立っていて、その分の光を受けて、眩し…

2021/11/03

ああ、手がふるえて、文字入力もゆれる、乾いた汗のかすかなべたつきもパジャマにこすれて、きょうも境目がないままになくなる、わすれられたいと声は広がる前に立ち消え、寝転びながら部屋に押さえつけられる、どこにも行けないと、毎日どこかへ行く人が言…

血場

なんてうるわしい、と殺伐を繰り返す 盲腸同時進行でうるうる予感する洗浄、赤血球細胞泡立つ影の先鋭 清らかな心を持った豚が食肉になることを受け入れない! 数えきれない臓物、血みどろのカマキリが ハシルハシル宙を切って 自らが切断されてもおかまいな…

散らばる鳥

ぐつぐつと土壌は煮えたぎる 遠くの絶命が聞こえてくる 不動の空よ 焼けて腐るのは女たちの女陰だけ わずかな草とともに 自然は全貌する 父の金切り声 引き裂いた下着の赤い膿から出る出るぼくの体 地中深くで根が巨大化する 殺戮前夜 化粧をして微笑むきみ…

2021/10/13-2

あしたせかいは 恐竜博物館を粉砕する 想像できるか すべてがきみの目からおぞましく飛び出してもう止まらないことを ありふれた日々に裂かれた虚無のありかを ざらついた皮ふに刻み込まれるむすうの欠落を なんにも知らなかったら きっと星を見て感動してい…

2021/10/13

書史を学ぶために体を横たえる、このとき初めて全世界の閉域からの逸脱を覚える、かすかな雨が地に突き刺さって、歩くことをむずかしくする、ご覧なさいこの体この血この視神経は絶えず衰え、かれらは広がってゆく、ぼくの手に負えない、おぞましいイメージ…

2021/10/12

やがてかれらは ぼくの前 いなくなる 声につよさがない 信じることはつらいからね セメントに足が ほがらかな歌声 亀裂の入った空には体の輪郭がないから ざらついた足音の どこかで燃える幽林からっぽでこわれて部屋の隅に立つ少女の結び目がぼくの目との距…

2021/10/11

部屋のなかに黒い部屋があって、暗くなる時間、ドアが音もなく開かれる。愛情や憎悪のしずまったこの時間、そっとぼくの胸のなかに手を入れて、大切なものを持ってゆこうとする。光差す天使の純朴さよ、どろどろとした悲しみは油田のように尽きないから、夕…

2021/10/10

空の雲は砂糖でできていて、あんなに夕暮れほどけている逆光してる、人の顔がどこにもないと思ったらここにあった。さらさらと流れている、それほど巨大なものはないとひとびとが口にするとき、ぼくは台風の目のなかにいる、台風にとっての。ざらざらしてい…

2021/10/08

青空の中に夕暮れがあった。鳥は銃弾のように飛来し、川の上流から下流へと、ねばっこい油が流れている。眼が山を焼き焦がすとき、いちもつが空を突き破ろうとする、ああ、そうやってせかいはひっくりかえって、突かれているのはぼくだ。やめて、やめて、兄…

2021/10/05

すべてをうしなって からだも 肉体も なにもない それでいい どこまでも行けると思っていたけど それは全体から個をひきちぎることなのか 全体がなければ個はないのか ぼくはなんだ これから先 しずかな毎日 なにもない これ以上壊すのか 風景 写真 映像 ぼ…

2021/10/03

彼は川で、対岸を見ている。その向こうの山。空。雲は夕闇にほどけて、消えかけている。水の音がずっと聞こえる。流れ。彼はさらに向こうを見る。日は落ち、飛行機雲が金色に線を描く。すべては夜になる。ぼくが彼を見かけたとき、彼は薄暗がりのなかで、ま…

2021/10/02

その駅には電磁波のような耳障りな録音された声が流れていて、階段をのぼったり下りたりしていた彼はその声が脳髄にまで響くような気がして、拡声器をもったひとりの男に近づき、

2021/09/29

その建物の裏にはあらゆる影があつまり、少女はその影にひとつずつ服を着せるために、街の古着屋から服を盗んでいたところを、たまたま通りすがった男が見ていたが、そのまま通り過ぎていった。

2021/09/28

部屋の隅に猿が座っているのに、彼女は目もくれず、野菜を食べていた。水道の蛇口からは水がぽたぽたと落ちていて、窓ガラスには蛙の死体が張り付いていた。布団にはカビが生え、天井には蜘蛛の巣が張り巡らされている。でも彼がその部屋に来て、まず驚いた…

2021/09/27

胸のうちでバラがうずもれながら花ひらくような気のくるいを ずっと感じてる 幻はふさぎこんで動揺しているのを風景のなかに見てとる 少女はみなうつくしいと老人はしわだらけのからだで言った なにを間違えたのだろう どうして獣が煙のなかで堕胎するのだろ…

2021/09/26

ぼくを吹き飛ばそうとする風はぼくの息じゃない。山の向こうから風が吹く。ぼくの体は肉体におさまることができないからといって、空の高さを知るわけではないけど、空がぼくの心象だと思うとき、すがすがしい思いがするんだ。きれいな空。きみのなめらかな…

揺籃

かたちのないもの、意味や、音だけのもの、考えて、耳をすます。家という家が、洪水によって、そのどろどろとした濁流によってぐちゃっとつぶれながら流されてしまうように、この部屋で、見えるものが、見えないものになってゆくように、けれど決して、透明…

眠っているとき、夢を見て、朝食を食べているとき、それを目覚めていると言わないとするなら、実際に目覚めているとき、目覚めていないわたしは、眠っていると言えて、そういったことを、大きなことばや小さな言葉、強いことばや弱い言葉で形づくることは、…

小魚が、ながれてきたあがいてる蟻を、噛む。血も痛みもないし、だれも、おそらくその小魚さえ、蟻が死んだことを、知らない。その蟻は、夢中になって、砂場の端から端を歩いていた。意味もなく。そこからどのようにして川の中に落ちたのか、歩いているとき…

丹念にほぐしてゆくと、骨もやわらかく、溶解するように、とかれていって、くつひもを結ぶことも、腕時計を外すことも、キスをすると見せかけてあなたの舌を噛みちぎることも、病におかされた者をいつまでも問い詰めることも、わたしたちにとって、なんの変…

空間と、鏡があり、歩いて目の前まで行くと、醜い男が映っている。手を、鏡に当てる。手は、自分の胸をさわり、その奥へと吸いこまれるように手先から腕まで入って、そのまま鏡(体?)のなかに体(鏡?)が入っていった先に、醜い男が仰向けで息をぜえぜえ…

魚が増殖して身の置きどころがないと兆しが耐えられない波状の粒子がざわめきたっている 絶倫 狭間にはみの虫が 耐えられないよ 雨降る粒を数えている発狂した老人が! 世界にはさまざまな果てがあって 君の喉がそれだ 破壊してゆく 冷たい銀の床 横たわって…

ドアをひらこうにも、みぎてがいもむしになって、鍵穴から果汁がたれる、ほらほらこれがかの女のちいさな胸、ひだり隣のおとこがさしだすのは腐った西瓜とまとわりつく小蝿だった、ものをかぞえるということの不可能性、血をみたこどものあざやかな心象、ぶ…

さからうことのできない感覚のひょうりに、ねむけがあたたかいひざしのようにさしこむとき、ぼくはまたわすれることができる。 文字とかくだけで文字は増殖をくりかえし、ねむけは夏の洞窟のひややかな影のように覚醒をおさえこむが、洞窟がくずれおちること…

くさきをみて、その先のとがりを、ちくちくを、からだのうちがわに増殖としてかんじられるとき、神のたいりつがまさにここにあるとおもった。 うなだれた女のくびから花がさく。花はあおく、ゆるぎなくふとうめいだ。わたしのいしで、花は沈黙する。ひとのひ…

ひきさかれたうえに塩がぱっぱとふられ、あしたかわへ沈もうとおもう。幻の放流のなかをおよぐかの女は軍隊式のぼくらを見ることはけっしてない。ざっざっと弦楽器がそろって鳴る。わたしみらい、遠くへはいけない。あした狂う、暴力的なひかりの中で。 へい…

おとこがよこたわっている。きぬのようななめらかな脚のさきにいたるまで椿の赤黒い花が渦巻くように咲いて、血がしたたるようにみずみずしい。ざらついた脚の女はやわらかい椿の花を脚の先でふむ。光も影もなく、色のついた覚醒だけが、置き時計のようにお…