2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/09/29

その建物の裏にはあらゆる影があつまり、少女はその影にひとつずつ服を着せるために、街の古着屋から服を盗んでいたところを、たまたま通りすがった男が見ていたが、そのまま通り過ぎていった。

2021/09/28

部屋の隅に猿が座っているのに、彼女は目もくれず、野菜を食べていた。水道の蛇口からは水がぽたぽたと落ちていて、窓ガラスには蛙の死体が張り付いていた。布団にはカビが生え、天井には蜘蛛の巣が張り巡らされている。でも彼がその部屋に来て、まず驚いた…

2021/09/27

胸のうちでバラがうずもれながら花ひらくような気のくるいを ずっと感じてる 幻はふさぎこんで動揺しているのを風景のなかに見てとる 少女はみなうつくしいと老人はしわだらけのからだで言った なにを間違えたのだろう どうして獣が煙のなかで堕胎するのだろ…

2021/09/26

ぼくを吹き飛ばそうとする風はぼくの息じゃない。山の向こうから風が吹く。ぼくの体は肉体におさまることができないからといって、空の高さを知るわけではないけど、空がぼくの心象だと思うとき、すがすがしい思いがするんだ。きれいな空。きみのなめらかな…

揺籃

かたちのないもの、意味や、音だけのもの、考えて、耳をすます。家という家が、洪水によって、そのどろどろとした濁流によってぐちゃっとつぶれながら流されてしまうように、この部屋で、見えるものが、見えないものになってゆくように、けれど決して、透明…

眠っているとき、夢を見て、朝食を食べているとき、それを目覚めていると言わないとするなら、実際に目覚めているとき、目覚めていないわたしは、眠っていると言えて、そういったことを、大きなことばや小さな言葉、強いことばや弱い言葉で形づくることは、…

小魚が、ながれてきたあがいてる蟻を、噛む。血も痛みもないし、だれも、おそらくその小魚さえ、蟻が死んだことを、知らない。その蟻は、夢中になって、砂場の端から端を歩いていた。意味もなく。そこからどのようにして川の中に落ちたのか、歩いているとき…

丹念にほぐしてゆくと、骨もやわらかく、溶解するように、とかれていって、くつひもを結ぶことも、腕時計を外すことも、キスをすると見せかけてあなたの舌を噛みちぎることも、病におかされた者をいつまでも問い詰めることも、わたしたちにとって、なんの変…

空間と、鏡があり、歩いて目の前まで行くと、醜い男が映っている。手を、鏡に当てる。手は、自分の胸をさわり、その奥へと吸いこまれるように手先から腕まで入って、そのまま鏡(体?)のなかに体(鏡?)が入っていった先に、醜い男が仰向けで息をぜえぜえ…

魚が増殖して身の置きどころがないと兆しが耐えられない波状の粒子がざわめきたっている 絶倫 狭間にはみの虫が 耐えられないよ 雨降る粒を数えている発狂した老人が! 世界にはさまざまな果てがあって 君の喉がそれだ 破壊してゆく 冷たい銀の床 横たわって…