2021/10/05

すべてをうしなって からだも 肉体も なにもない それでいい どこまでも行けると思っていたけど それは全体から個をひきちぎることなのか 全体がなければ個はないのか ぼくはなんだ これから先 しずかな毎日 なにもない これ以上壊すのか 風景 写真 映像 ぼくはどこで なにもできない

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 からんころん、となって、ぼくのからだがころがる。砂はざらざら、きこえるのは葉がこすれる音、水が流れる音、それから、からだのなかの。部屋にはわずかな塩だけが残っている。いつか雨が降って、隅に置かれた人形がぬれる。人形の目。見ることが失われた。せかいは目の内側に入り込んだ、自分もまた目の内側に入り込んで、残ったのはなかったものだけ。見ることが失われたとき、ていねいに折りたたまれたハンカチを、母親が静かに引き裂いた。