2021/10/10

 空の雲は砂糖でできていて、あんなに夕暮れほどけている逆光してる、人の顔がどこにもないと思ったらここにあった。さらさらと流れている、それほど巨大なものはないとひとびとが口にするとき、ぼくは台風の目のなかにいる、台風にとっての。ざらざらしていた肌は剃り残しがあって、きっと抱きしめ合うと思っていたんだね、きもちわるい、手にふれる、すると足が加速する、記憶は「き」「お」「く」と呼ばれていた、空は「ゾラ」とよばれていた、ぶ、と呼ばれていた、きこえない、と呼ばれていた、町角で流転する、老人たちが溺れてたのしそう。メロンとか、けむり、感触だけではどこにも行けない、からだにはぜんぶ知れない知らない遠くにいる友だち、とも呼べない、すうっと天井を濁らせている、からだは横たわる、右と左はないが東西南北はある、赤血球はある、白血球はどうか、やがて来る、と言うもの、こと、感情やひらめき、わすれようとしてどこにも行けなかった、大阪万博、広島の空で、男が見下ろしている、川にはとけたひとたち、皮ふをすーっと切って、赤い肉がめくれ、血は赤黒く、そのうちに夜ととけあって、星が川の水と同じ光と影の混合物となる、ああどんな夜も、朝になる頃には忘れ去られ、川の記憶はない、流れ続けているから! 影がたおれて、花はしなびて、男たちは勃起する、すべては再現できる、やがて来る日々、一年や二年では、世界は流転しない、いつまでもこの部屋は、大地とつながることはないと言うとき、地響きがして、何度も錯乱していた少女の、手をかり、山をみ、竹林が誘っている、貧弱な朝、セメントはぼくの心象を固める、ぼくの行為を破る、ぼくは煙のなかに消える、やがて来る時間の重さ軽さは、だれも救うことができないかもしれないとひとびとは言うが、ぼくはあきらめていない、少なくとも人形たちはまだだれもぼくに話しかけることをしなかった。