丹念にほぐしてゆくと、骨もやわらかく、溶解するように、とかれていって、くつひもを結ぶことも、腕時計を外すことも、キスをすると見せかけてあなたの舌を噛みちぎることも、病におかされた者をいつまでも問い詰めることも、わたしたちにとって、なんの変わりもなかった。

 嵐はcrescendoのごとく空間を引き裂いてそのうつくしい線を指でなぞる。女の首筋のように。
 目から出る血はあらゆる可能性のひとつとして、喪失として、文字として、痰として、落ちる落ちる触ることはできないその声を聞くこともできない、部屋が語りかけてくる、あの竹林のように真実を告げようとする。走っても走っても影のようについてくるから、拭いきれない記憶として、直面せざるを得ないのか。わたしたち手をつないで、
 そうあなたとだけ手をつないで、どこまでも行けるはずだと、そのすべてが幻であることにいささかも疑いなく、歩いてた。