おとこがよこたわっている。きぬのようななめらかな脚のさきにいたるまで椿の赤黒い花が渦巻くように咲いて、血がしたたるようにみずみずしい。ざらついた脚の女はやわらかい椿の花を脚の先でふむ。光も影もなく、色のついた覚醒だけが、置き時計のようにおとこの脚の付け根のあたりで脈を打っている。
 巨大なビルが建設されている。
 おとこはあらゆる感触を奪われたのちに花を咲いた。もし、桃をむくように皮ふをむかれたり釘を打つように頭を巨大な鉄の塊で押し潰されても、花は微動だにしないのだ。
 椿か。
 おとこたちはやわらかいふぐりをさわりあいながら光るものをみている。ほかのおとこたちはかたいくきをさわりあいながら光によってうしなわれる影をみている。光と影は、覚醒の前であらゆるものから排除される。天使は鳥肌をたてて、逃げ惑う。天使を銃で撃ち抜くことで、指は関節ごとに膿んでゆく。天使たちは、男の眼の中へ、入ってゆくことができなかった。
 それでも男は、死の手前を奇跡のように保つことで、神の叛逆をまぬがれていた。